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山形地方裁判所 昭和33年(行)8号 判決

原告 高橋伝九衛門 外二五名

被告 高畠町長・高畠町

主文

原告らの訴を却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は「被告高畠町長が昭和三十年十月一日から同三十三年八月二十五日までの間になした高畠中学校と二井宿中学校とを、屋代中学校と糖野目中学校とを、和田中学校と綿岡中学校とをそれぞれ統合する旨の処分の無効なることを確認する。被告高畠町長がなした高畠中学校および二井宿中学校を廃止し、右両校の生徒をもつて高畠第一中学校を新設する旨の中学校新設処分の無効なることを確認する。(予備的に)右中学校新設処分を取消す。被告高畠町は右高畠第一中学校新設統合処分に基づく国家補助金の交付申請、請求受領または校舎の新築、増築、改築等の処置をしてはならない。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

一、被告高畠町(以下被告町と略称する。)は昭和二十九年十月一日旧高畠町、同町字二井宿村、同屋代村、同亀岡村、同和田村の合併により新設された普通地方公共団体であるところ、さらに同三十年二月一日同糖野目村をも編入合併したものである。

二、ところで被告町の右合併前の右関係町村の各議会において同二十九年八月二十六日それぞれ合併の議決をし、その建設計画および合併協議書の条項中に「小、中学校は現在のまゝ独立校とする」との一条項を定め、そして前述のように同年十月一日右合併が実施され、被告町が成立した。しかるに被告町は右条項を無視し被告町所在の六中学校統合を計画し、訴外高畠町教育委員会では同三十年十月十日右中学校学区変更の決議をして同三十一年一月十日に被告町長に通告し、同年三月十七日同委員会は従前の右六中学校の高畠地区、二井宿地区、屋代地区、糖野目地区、和田地区、亀岡地区の六区を第一学区高畠、二井宿地区、第二学区屋代、糖野目地区、第三学区和田、亀岡地区の三学区に変更統合する旨の決議をし、被告町議会においても同三十一年八月二十七日右教育委員会の学区変更統合決議の報告を承諾しその結果被告町長は昭和三十年十月一日から同三十三年八月二十五日までの間に従前の高畠中学校と同二井宿中学校とを、同屋代中学校と同糖野目中学校とを、同和田中学校と同亀岡中学校とをそれぞれ統合する旨の抽象的処分をした。ところで、右合併に際し、前記「小中学校は現在のまゝ独立校とする」旨の条項を設けたのは、右関係町村の区域の地勢的、気候的、施設的状況、環境にかんがみ通学距離の延長により時には通学不能となることがあり、かつ環境の都会化に伴う出資が増加し、これらにより必然的に蒙る関係町村在住民の教育上の大きな不利益、負担の防止のためである。従つて被告町は右条項を維持、遵守することを要し、右状況、環境等につき特段の変動がない限り、被告町議会の議決その他の手続により改廃しえないものであり、被告町は右義務を関係町村の住民に負担しているのである。従つてこれを無視した被告町長の右抽象的処分は違法であつて当然無効である。

三、従つて、被告町長が右無効な抽象的処分に基いて、同三十三年五月二十日の右教育委員会決議および同年八月十一日の被告町議会の決議によるものとし、同年八月三十一日右高畠中学校と二井宿中学校を廃止し、翌九月一日右両校の生徒をもつて高畠第一中学校を設置する旨の中学校新設統合処分もまた無効といわねばならない。

仮に無効ではないとしても、右新設統合処分は右教育委員会および被告町議会の決議を経ておらず新市町村建設促進法第五条所定の手続によることなく、同法第八条所定の条件にも合致しない不当違法なものであるから取消さるべきである。

四、右違法な統合処分を実施するために被告町は右町議会に予算案を計上してこれが議決を経たり、右高畠第一中学校々舎の新築等の処分をし、また国家補助金の申請、請求受領の処分をなさんとしているのでこれが差止めを求めるのである。

五、原告ら、および別紙目録記載の選定者は右二井宿村の住民で、同村在住中学生の保護者たるべき者であつて本訴につき共同の利益を有する多数者である。

以上の次第で本訴請求におよんだ次第である、と陳述し、

本案前の抗弁に対する答弁として

一、本件訴訟はいわゆる固有必要的共同訴訟ではなく本件行政行為により直接権利侵害ないし不利益をうける者の全員でなくともその相当数の者であれば右行為の無効確認または取消を訴求する利益(適格)を持つているから、被告主張のような小数の者の選定行為にかしがあつてもその者の選定行為だけが無効で存在しないというだけで他の相当数の者の原告らを選定する意思に変りなく、その者の選定行為に何らの影響をおよぼすものではない。

二、請求趣旨第一項のごとき統合処分が抽象的に存在する。

三、本件中学校統合処分の無効確認の訴が公法上の権利関係に関する訴訟であるかまたはいわゆる抗告訴訟に準ずべきものであるかは別として行政訴訟として許される。

四、原告らは昭和三十三年八月三日山形県知事に対し本件につき訴願を提起したが、同年九月二十五日右訴願書返戻の処分をうけたものであると述べた。

(立証省略)

被告訴訟代理人らは、主文同旨の判決を求め(予備的に)原告らの請求を棄却するとの判決を求め、

本案前の抗弁として、

第一、原告らを選定した者のうち、安藤忠吉は被告町の住民ではないから本訴につき何らの利害関係もないので当事者適格を有しないし、また高梨劔重、高梨藤一、玉川富子、堀内みつ子、佐藤庄市、玉川誠一、島津しげ子、戸田豪はいづれも未成年者であるにもかゝわらず法定代理人によらないで原告らを選定している。従つて右安藤ら八名の右選定行為は違法であり、その結果右安藤らを含む別紙目録記載の選定者による原告らの選定行為も全体として違法であるから、原告らの本訴の提起行為も不適法である。

第二、請求趣旨第一項の被告町長の統合処分は存しないから、この点についての本訴は不適法である。

第三、仮に右処分が存するとしても、原告らは旧二井宿中学校地区の住民にすぎないので請求趣旨第一項中の高畠中学校と二井宿中学校の統合の点を除くその余の部分については何ら利害関係を有しない。従つて原告らは当事者適格を有しない。

第四、請求趣旨第一項は、行政事件訴訟特例法(以下特例法と略称する。)第一条により行政庁の違法な処分の取消又は変更を求める訴訟又はその公法上の権利関係に関する訴訟はいずれにも該当しない不適法な訴である。

第五、請求趣旨第三項中校舎の新築、増築、改築等につき不作為を求める点は事実行為であつて、原則として特例法による行政訴訟の対象たりえないものであつて不適法である。

第六、行政訴訟の無効確認と取消とを同時に求めるのは明らかに矛盾した請求であつて法律上許容しがたいものである。仮にこれが許容されるものとしても、原告らは適法な訴願手続を経ていないので請求趣旨第二項中の取消訴訟は許されない。

以上の通り陳述し、さらに

原告の主張事実に対し

被告町は、昭和二十九年十月一日、旧高畠町、同二井宿村、同屋代村、同亀岡村、同和田村の合併により新設された普通地方公共団体であるところ、同三十年二月一日同糖野目村をも編入合併したこと、同三十一年三月十七日訴外高畠町教育委員会が高畠町立中学校学区変更(すなわち原告ら主張の三学区変更統合)決議をしたことおよび昭和三十三年五月二十日右高畠町教育委員会が、次いで同三十三年八月十一日被告町議会が旧高畠中学校と旧二井宿中学校を同三十三年八月三十一日に廃止し、その生徒をもつて、同年九月一日高畠第一中学校を設置する旨の中学校新設統合の決議をそれぞれしたこと、被告町は統合処分実施のため予算案を計上町議会の議決を経たり校舎新築又は国家補助金申請等の処置をとつたこと(なお被告町は昭和三十三年二月四日から右統合中学校である高畠第一中学校の校舎の建築に着工し現に全設計の三分の一も出来上つており、国庫補助金も交付され、また将来も交付されることになつており、昭和三十二年三月二十四日被告町長提出の昭和三十二年度歳入統合中学校建設費補助金としての国庫補助金八百八十九万円、歳出統合中学校建設費としての教育費金三千三百三十一万円の予算案を同町議会に提出し、同町議会はこれを承認議決し、さらに同三十三年三月十二日被告町長から同町議会に提出した同年度歳入右国庫補助金千七百九十一万五千円、歳出第一統合中学校建設費として教育費金四千二百二十九万五千三百円の予算を承認議決したのであるはいづれも認めるが、その余は否認する。すなわち、原告ら主張の合併町村協議書は「小中学校は当分の間現在のまゝとする」とあり、仮に「小中学校は現在のまゝ独立校とする」とあるとしても、これは合併時において、そのまゝ独立校とするという意味であつて合併後教育上の見地からその学区の変更、小中学校の統廃合が施行されるのは極めて当然のことである。右合併協議書ならびに建設計画書においては小中学校の統廃合をなさない旨の制限を定めた条項は毫も存しないのは当然のことである旨答えた。

(立証省略)

理由

一、本件訴訟が、いわゆる固有必要的共同訴訟に属するものとは認めがたいところ、原告ら訴訟代理人は本件第四回口頭弁論期日において、原告ら選定者高梨劔重、高梨藤一、玉川富子、堀内みつ子、佐藤庄市、玉川誠一、島津しげ子、戸田豪の関係で本訴を取下げる旨の申し立をし、被告はこれに同意しないこと、しかるところ被告は訴訟要件の欠けていることを理由にして本訴の却下を求め、予備的に本案について答弁しているにすぎないことが記録上、及び当事者双方の主張に照らして明かである以上被告の同意がなくても右取下の効力は妨げられないものというべきである。されば被告の右選定者らとの関係で本訴が係属していることを前提としての被告らの主張はその余の点については判断するまでもなく理由がない。

二、請求趣旨第一項について、

(1)  被告町は昭和二十九年十月一日旧高畠町、同二井宿村、同屋代村、同亀岡村、同和田村の合併により新設された普通地方公共団体であること、さらに同三十年二月一日同糖野目村をも編入合併したことは当事者間に争いがない。

(2)  そして被告町長が右合併後被告町内の六学区内の六中学校のうち右高畠中学校と同二井宿地区の二井宿中学校とを、同屋代地区の屋代中学校と同糖野目中学校とを同和田地区の和田中学校と同亀岡地区の亀岡中学校とをそれぞれ統合する旨の具体的処分をしたことを認めるに足る主張、立証もないところ、昭和三十一年三月十七日訴外高畠町教育委員会が、右従前の六中学校の高畠地区、二井宿地区、屋代地区、糖野目地区、和田地区亀岡地区の六学区を第一学区、高畠、二井宿地区、第二学区、屋代、糖野目地区、第三学区和田、亀岡地区の三学区に変更統合する旨の決議をしたことは当事者間に争いがない。しかるところ、右中学校学区変更処分は学校教育法第四十条、第二十九条、地方教育行政の組織及び運営に関する法律第二十三条、第三十条学校教育法施行令第五条、第六条に照らし、右高畠町教育委員会の職務権限に属するものということができる。さればこの点についての原告らの訴は右高畠町教育委員会を被告とし前記決議の当否を争うべきであるのにこれをしなかつた違法があるから、その余の点については判断するまでもなく不適法である。

三、請求趣旨第二項について、

右高畠町教育委員会が昭和三十三年五月二十日右高畠中学校と二井宿中学校とを昭和三十三年八月三十一日限り廃止して、その生徒をもつて、同年九月一日高畠第一中学校を設置する旨の中学校新設統合処分をしたことは成立につき争ない甲第十九号証に照らして明らかであるところ、被告町長において右中学校新設統合処分をしたことを認めるに足る証拠もない。

しかるところ右中学校新設統合処分が右高畠町教育委員会の職務権限に属することは前項において述べたところと同一である。さればこの点についても前項と同じ理由にその余の点については判断するまでもなく不適法である(なお予備的請求の点についても同様である。)。

四、請求趣旨第三項について、

被告町では昭和三十三年二月四日から右統合中学校である高畠第一中学校の校舎の建築に着工し、現に全設計高の三分の一も出来上つており、このための国庫補助金も一部交付されまた将来も残額を交付されることになつていることは当事者間に争いがなく、また原告らおよび選定者らが被告町に在住し、右二井宿中学校に通学する子女の保護者(将来通学すべき生徒の保護者をも含む)であることを被告らは明かに争わないのでこれを自白したものとみなさねばならない。しかるところ、仮に右高畠第一中学校を建築すること等が違法な行為であるとしても、一般に行政庁に対し作為不作為を裁判所に対する訴の方法を以て求めることは許されないものと解すべきのみならず、これが利害得失はひとり原告らにとゞまらず、被告町住民全体に関係することであるから、かゝる場合にも原告らに訴の利益があるとするためにはいわゆる民衆訴訟として地方自治法第二百四十三条のような特別の規定を要するところ、仮に本訴を同条に基くものとしても本件において同条所定の監査請求手続を経たことを認めるに足る主張立証もない以上、その余の点については判断するまでもなく不適法なものといわねばならない。

以上の次第であるからその余の点については判断するまでもなく原告らの本訴は結局不適法であつて却下を免れない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 西口権四郎 藤本久 古館清吾)

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